沼田堤
所在地:元荒川右岸、埼玉県鴻巣市(こうのす)箕田〜鴻巣
沼田堤は元荒川(旧荒川)の右岸に残る控堤。鴻巣市鴻巣大字沼田と鴻巣市箕田との境界に沿って、
赤見台排水機場の付近から鴻巣北中学校の付近まで、その跡が約400mに渡って残っている。
その起源は戦国時代末期にまで遡れるようで、箕田堤や三谷堤とも呼ばれていたようである。
控堤とは河川の本堤(いわゆる堤防)ではなく、本堤から直角方向に延びた控えの堤防のことである。
村境の水防重点地点に設けられることが多い。沼田堤の場合は、箕田地区からの悪水(排水)や
洪水が宮地や鴻巣地区へと進入するのを防ぐ配置となっている。
沼田堤は武蔵国郡村誌の足立郡鴻巣宿(3巻、p.143)に、
”元荒川水除堤にして〜中略〜長さ555間(約999m)、馬踏1間(天端幅が1.8m)、堤敷3間(5.4m)、
修繕費用は民に属す”との記述がある。
![]() (1)鴻巣北中学校の南側から ここは箕田、神明二丁目、宮地三丁目、鴻巣の境界。 600m北東に元荒川、1.9Km南西には荒川が位置する。 写真の右端の歩道が沼田堤の跡である。 |
![]() (2)鴻巣市箕田〜鴻巣 写真(1)から北東へ300mの地点。写真の左が箕田、右が鴻巣。 わずか50m程だが堤防の形跡がはっきりと残っている。 東側(写真の右側)50mには沼田堤に沿って県道32号線が通っている。 |
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(3)赤見台排水機場の東側から 写真(2)から北東へ50mの地点。 ここは箕田、鴻巣、市ノ縄の境界付近である。 北側(写真右方向)の市ノ縄地区には八幡神社があり、 弘化二年(1845)建立の弁財天や安永五年(1776)建立の 庚申塔などが祀られている。元荒川には宮地堰があり、 沼田堤も築かれている土地柄から、弁財天は水難除けや 取水の安定を祈願したものだろう。 写真上部に見えるのが沼田堤。 沼田堤を貫いて、奥から手前に流れるのが箕田中悪水路。 箕田中悪水路は農業排水路で、元荒川上流の三ツ木堰で 取水した農業用水の余水を元荒川へ放流している(注)。 その起源は付近に広がっていた箕田沼を 干拓するために掘られた落し(排水路)である。 元荒川に設けられた宮地堰から取水する新谷田用水も 沼田堤を貫いて流れている。 新谷田用水の流末は一級河川 赤堀川の水源となっている。 |
(注)箕田中悪水路は新谷田用水の下も伏越で横断している。
これは江戸時代からの水利形態が、今に踏襲されているようだ。
文政年間(1830年頃)の調査を基に編纂された、
新編武蔵風土記稿の足立郡市縄村(8巻、p.35)に
”鴻巣用水の圦なり、此下を悪水落しの小渠通ず
呼て地獄圦といふ 其所に逆水ふせぎの門樋あり”とある。
鴻巣用水の圦というのは、元荒川の宮地堰から取水する新谷田用水の
取水口。写真(3)の左上隅に見える2連の樋門が地獄圦に相当する。