通潤橋に水が流れる様子
流 入 側 |
流 出 側 |
橋の上部に埋設された通水管(長さ127m、3本の石造りのパイプ)の中を 上の写真のように用水が流れています。 通潤橋の中央部との水位差は流入側が7.5m、流出側が5.8m。 用水は、逆サイフォン(連通管)の原理によって流れます。 つまり、流入側から7.5mの落差で流れ落ちた水は、圧力を受けながら 通潤橋に埋め込まれた3本のパイプの中を流れ、5.8m高い流出側へと かけ上がります。流出側では水が勢いよく噴き出すので、 それを和らげるために、石造りの水槽が設けられています。 水の流れを横から見ると、通常のサイフォンは 形が∩であるのに対して、逆サイフォンの形は∪となります。 水路(管路)にかかる圧力は、サイフォンは頂部で負圧になることが多く、 逆サイフォンは常に正圧となり、水理学的には両者はまったく別のものです。 なお逆サイフォンとは、inverted syphonの誤訳だと思われます。 河川と水路が立体交差する地点では、 (1)水路を川の下に潜らせて横断させる、 (2)水路を川の上に架ける、のどちらかを選ぶ必要があります。 川の下に潜らせる場合、水路の形式は逆サイフォンとなります。 ただし施設名はサイフォンあるいは伏越(ふせごし)となることが多く、 逆サイフォンと呼ばれることは、ほとんどありません。 川の上に水路を架ける場合には、水路橋または水管橋となります。 水路橋と水管橋の違いは、水路橋は開水路(蓋のない水路)、 水管橋は管路(パイプ)で圧力がかかることです。 昔は水路橋を掛樋(かけとい)や筧(かけひ)と呼ぶこともありました。 これらの形式は、土木の水利構造物では、古くから使われています。 江戸時代(通潤橋の建設よりも100年以上前の1730年頃)に 開削された見沼代用水路(埼玉県、農業用水路)では、木製ですが、 柴山伏越(元荒川を逆サイフォンで横断)、 瓦葺掛樋(綾瀬川を水路橋で横断)が建設されています。 通潤橋の変わっている点(すごい点でもある)は、上記の2つの形式、 伏越と掛樋が同時に使われていることです。 おそらく、日本で唯一の石造り逆サイフォン形式水管橋でしょう。 水理学的には逆サイフォンなので、通潤橋は地上に露出した巨大な伏越ともいえます。 地下に埋設され、川の下を潜るから、伏越なのですけどね(笑) それにしても、機械などない時代に石をひとつひとつ積み上げて、 これほど巨大な石橋(まさに手作りの橋)を創りあげた石工たちの知恵と技術。 これからあとも、通潤橋が残る限り、語り継がれることでしょう。 |