都幾川の斜め堰

 埼玉県東松山市の都幾川には、農業用水を取水するための斜め堰が、5箇所に設けられている。
 堰名は上流から、鞍掛堰、中井堰、上用水堰、矢来用水堰、長楽堰である。
 ただし、長楽堰は東松山市早俣と川島町長楽の境界に位置し、かんがい先は川島町である。

 斜め堰の形式はどれも固定堰(洗い堰)であり、しかも堰高は意外に低い。
 そのため、上流側で流水が完全にせき止められることはなく、よっぽどの渇水時でもない限り、
 下流側へある程度の通水が可能となっている。越辺川の取水堰の形式には、
 長い時間をかけて培われてきた都幾川の水利慣行が凝縮されている。
 過去には川島領の鳥羽井村など数村が、野本村や下青鳥村(共に現在は東松山市)が
 都幾川を完全に堰き止めてしまっているので、下流には水が流れてこないと、奉行所に訴えている。
 例えば、寛政十年(1798)の訴訟の議定書が残されている(埼玉県史 資料編13、p.823)

 中井堰  中井堰(都幾川右岸から)
 所在地:東松山市下唐子(しもがらこ)

 稲荷橋の下流500mに設けられた斜め堰。
 右岸側から高坂用水(農業用水)を取水している。
 写真手前に見えるのが、元圦樋管(昭和13年4月改築)。
 本体はコンクリート製だが、門柱(白い部分)とゲートは、
 なぜか木製である。
 元圦樋管から600m下流には、
奈目曽樋管(煉瓦造、
 1903年竣工)が設けられている。

 上用水堰
 上用水堰(都幾川上流から)
 所在地:東松山市葛袋

 中井堰の下流500mに位置する。
 長さ約70mの斜め堰(川岸と直角ではない)である。
 農業用水を取水している。
 部分的には、コンクリートで改修されているようだが、
 もともとは石積みの固定堰である。

 上用水堰から取水した農業用水は、都幾川の河川敷内を
 堤外水路(開水路)で運ばれ、下流200mの左岸堤防に
 設けられた
高畑樋管(元圦、煉瓦造、1903年竣工)から
 堤外へと送られる。
 高畑樋管から100m上流の堤外水路の脇には、
 
九頭龍権現(俗に云う竜神、水神である)が祀られている。

 矢来用水堰
 矢来用水堰(都幾川左岸から)
 所在地:東松山市葛袋〜下青鳥(しもおうどり)

 唐子橋(写真上部)の下流200mに位置する。
 下用水堰ともいう。
 これも斜め堰で、左岸側から農業用水を取水している。
 矢来用水堰から取水した農業用水は、都幾川の河川敷内を
 堤外水路で運ばれ(最初の200mの区間は暗渠、残りは開水路)、
 800m下流の左岸堤防に設けられた
四反田樋管
 (元圦、煉瓦造、1905年竣工)から堤外へと送られる。
 なお、矢来用水堰のすぐ近くの都幾川の左岸堤防には、
 
矢来門樋前樋管前吐樋管 (全て煉瓦水門、
 1903年竣工)が設けられている。
 これらは上用水の関連施設である。 

関連:都幾川の煉瓦水門 奈目曽樋管][高畑樋管][四反田樋管][矢来門樋][前樋管][前吐樋管