機械成形と手抜き成形の煉瓦

 明治時代に建設された古い建物や構造物では、建材に煉瓦が使われていることがある。
 諸外国では煉瓦製造に関して、紀元前にまで遡れる古い歴史を持つが、それに比べると
 日本の煉瓦史は、非常に浅く、国内で最初に煉瓦が焼かれたのは幕末であるようだ。
 瓦屋が見よう見真似の手作業で製造したとされる。
 近代化された工場で煉瓦の大量生産が始まったのは、明治20年頃からである。
 これは外国の技術を導入し、機械を使った本格的な煉瓦製造である。
 古い煉瓦の平の面(最も面積の大きい面)を見れば、その煉瓦が機械によって成形されたか否かが、
 ほぼ判定できる。ただし、これは明治・大正期の古い煉瓦寸法が210×100×60mmではないもの)に限る。

 機械成形の煉瓦
↑機械成形の煉瓦(平の面)
 
小針落伏越(1914年、行田市〜川里町、旧忍川)
 平の面には無数のシワシワ模様が見られるが、
 これは明治期などの機械抜き成形に特有なもの。
 この煉瓦は
日本煉瓦製造の製品なので、
 ドイツ製の型抜き機械が付けた跡である。
 化粧煉瓦の長手面(右の写真)と較べると、
 平の面の質感は明らかに違う。ホームセンター等で
 売られている現代の煉瓦にも機械成形の跡が
 見られるが、シワシワ模様ではなく、
 引っかき傷のような数本の直線である。
   表積用の化粧煉瓦
  ↑表積用の化粧煉瓦(長手面)
   小針落伏越(同左)
   平の面が煉瓦同士の接着面であるのに対し、
   (よって通常は目にすることができない)、長手面や
   小口面は表に現れる部分である。つまり、構造物全体の
   見た目の印象を決定付ける大きな要素でもある。
   写真の煉瓦は表面が滑らかで、しかもタイルのような
   光沢がある(焼きしめてあるので含水率が低く、
   強度も大であるという)。
   煉瓦の平均実測寸法は、22
1×106×58mm、
   平の面には、上敷免製(日本煉瓦製造)の
刻印がある。

 手抜き成形の煉瓦
↑手抜き成形の煉瓦(平の面)
 
皿田樋管(1903年、蓮田市、元荒川)
 平の面にはシワシワ模様は見られない。
 煉瓦の形状は歪みが大きく、色はくすんだ赤である。
 見た目にも柔らかそうな煉瓦。素地が均一に混成
 されていないうえに、焼成温度も低いと思われる。
 煉瓦の平均実測寸法は、219×103×53mm。
 この煉瓦は小口が
焼過となっていて、見た目は
 小口面に釉薬(ゆうやく:うわぐすり)が、
 かけられているような質感である。

   手抜き成形の煉瓦、刻印あり
  ↑手抜き成形の煉瓦、刻印あり(平の面)
   
榎戸堰((1903年)の下流(北足立郡吹上町、元荒川)
   
元荒川の床止め工(河床の洗掘を防ぐための護岸)の材料。
   長い間、川底に置かれていたため、表面には無数の傷が
   見られるが、シワシワ模様は確認できない。煉瓦の色は、
   水中にあったので含水率が高いせいもあるが、
   赤よりも黄色に近い。平均実測寸法は、228×106×57mm。
   押された刻印は会社の印ではなく、職人を区分するための
   ものであろう。この煉瓦は
長島煉瓦工場(1902年操業、
   小谷村、現.吹上町)の製品である可能性が高い。

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