米ノ谷樋管 (こめのや)
所在地:北葛飾郡杉戸町才羽字米ノ谷、中川(旧右岸堤防) 建設:1897年
長さ | 高さ | 天端幅 | 翼壁長 | 袖壁長 | 通水断面 | ゲート | その他 | 寸法の単位はm 巻尺または歩測による *は推定値 |
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川表 | 8.8* | 2.0 | 1.4 | 1.2 |
箱0.65* | 鋼スルース | 変則積み | ||
川裏 | 旧施設(煉瓦樋門)の前面に翼壁、門柱が新設されている |
この樋門の所在は、大島新田関枠の写真を撮っていた時に、農家のおじさんから教えてもらった。
曰く、[中川の万年橋の下流にも、煉瓦の水門があったような...]
県道319号を春日部市方面へ向かうと、中川の旧堤防がすぐ左側に見えてくる地点のことだ。
本施設には銘板は残っているのだが、施設名が見えないので名称が不明である。
しかし、この付近の小字名が米ノ谷であること、竣工年が明治30年であること、
通水断面の形状が箱型であることから、米ノ谷樋管だと思われる(→埼玉県行政文書 明治2447-2)。
この付近は明治30年頃は、北葛飾郡田宮村大字才羽字米野谷であった。
田宮村は昭和30年(1955)まで存在したが、その名残りである大正時代に
設置された田宮村の道路元標が今も残っている。
武蔵国郡村誌の葛飾郡才羽村(14巻、p.332)には、米ノ谷樋管と思われる施設の記述が残されている。
”逆留樋:内法ニ尺四方長七間 米野谷耕地の悪水を流下す”とある。
武蔵国郡村誌は明治9年の調査を基に編纂された書なので、この逆留樋は
木造だったはずである。通水断面は正方形で一辺が0.6mだから、米ノ谷樋管と大差がない。
米ノ谷樋管が設けられた堤防は米野谷堤といい、修堤記(杉戸町才羽、八幡神社内)によると、
堤防の修築工事(災害復旧であろう)が、明治28年1月に起工し明治30年5月に完了している。
修堤記(石碑)であるが、碑文には道路増設長が770?間(約1390m)、修堤長が91間(約160m)と
記されていて、堤防の修築長はわずかである。しかし、この工事は工期が2年以上に及んでいて、
当時の町村土木事業としては異例の長さである。埼玉県では明治29年に中規模な洪水が
発生しているので、その影響で工事完了が遅れたのであろうか。
米ノ谷樋管は明治30年5月17日竣功であり、米野谷堤の修築と同時に建設されている。
使用煉瓦数が6,000個(選焼過一等)、樋管長が4間半(8.1m)、通水断面の幅が2尺1寸(0.63m)、
高さが2尺5寸(0.75m)と小規模な樋管である。しかし、米ノ谷樋管は現存する埼玉県最古の
箱型樋管であり、同時に煉瓦の組み方に変則積みが見られる現存最古の樋管でもある。
変則積みとは筆者の命名だが、翼壁の天端付近の煉瓦がイギリス積みではなく、
長手の縦で積んである変則的な方式で、荒川水系に多く現存する。
米ノ谷樋管は荒川水系以外の樋管で唯一、変則積みが見られる貴重な存在である。
しかも今も現役の施設である。
↑米ノ谷樋管(川表) 新設された操作台とゲート。 操作台の後ろには石造りの小さな塔?が 残されている。川表と川裏は大幅に 改修されているが、樋門の本体(頂版は 石造り、側壁は煉瓦造り)は建設当初の ままだと思われる。翼壁の天端下の1段は 煉瓦がイギリス積みではなく、変則積みで 組まれている。長手または小口の縦という 変った煉瓦積みが、なされている。 |
↑米ノ谷樋管(川裏) 煉瓦樋門の前面には、コンクリート製の翼壁と鋼製の門柱が 増設されている。川裏のゲートは使われていないようだ。 この地点は、中川の右岸堤防から東へ約40m離れている。 写真の堤防、米ノ谷堤は中川の本堤(右岸堤防)ではなく、 本堤から直角方向に延びた旧堤防(逆除堤)である。 米ノ谷堤が下流の北蓮沼、大塚地区を洪水流から守る一方で、 並塚、才羽地区の悪水は、米ノ谷樋管から 中川(旧・庄内古川)へと放流される。 地図を見ればわかるように、かつてはこの付近では庄内古川は 蛇行・乱流して流れていたようで、米ノ谷樋管の建設と前後して、 庄内古川の沿岸には数多くの煉瓦水門(逆流防止)が設けられた。 ここから1.5Km上流には惣新田堰枠(1897年、杉戸町)、 800m上流には神扇落樋管(1897年、杉戸町、全面改修)、 2Km下流には、四箇村水閘(1896年、春日部市)、 安戸落逆水除(1895年、春日部市、全面改修)などである。 |
↑改修前の門柱(川裏) 門柱は石造りである。笠木にはゲートを 取り付ける穴が2つ開いているので、 木製のスルースゲートが付いていたと思われる。 笠石の側面(川裏)には竣工年が刻まれている。 川表には施設名があると思うのだが見えない。 |
↑川裏の面壁 門柱の隙間からは面壁と翼壁が現存すること、 および通水断面が箱型であることが確認できる。 写真の上部が面壁、甲蓋を挟んで、下部が翼壁である。 面壁と翼壁の接合部には戸当り(ゲートを差し込む溝)が見える。 甲蓋と戸当りは石造りである。 |